
提供:株式会社萬乗醸造
取材日:2026年8月28日
1640年代、名古屋の「庄屋(しょうや)」から始まった蔵元・株式会社萬乗醸造。大手メーカーの下請けとして大量生産を担っていた時代を経て、自社ブランド「醸し人九平次」へと舵を切りました。そして「ワインと同じ醸造酒なのに、日本酒の価値は正しく伝わっているのか」という問いを胸に、当時まだ日本酒がほとんど届いていなかったパリの3ツ星レストランへ“正面突破”で飛び込みます。さらに兵庫県黒田庄での自社米づくり、フランス・ブルゴーニュでのワイン造りへ——。蔵の哲学を最前線で伝える白井様に、日本酒の「当たり前」を疑い続けてきた挑戦の軌跡を伺いました。
①「庄屋」から始まった1640年代創業の蔵元。自社ブランドで挑む
②美食の都パリへの「正面突破」
③「畳2枚でわずか1本」自社米づくり

株式会社萬乗醸造
社長付・営業部長・醸造技術部 白井様
他学生メンバー(後述)
| 業種 | 食料品 |
| 本社所在地 |
愛知県名古屋市緑区大高町字西門田41 |
今回の取材記事担当は名古屋大学4年 稲葉琉斗です。よろしくお願いします!
企業理念
光琳・若冲などは、
「文化を描いていた気持ちがあったのでしょうか?」
違う筈です。
文化ではなく、その時の世間・民を、ただただ、ヒタスラに「すごい! 美しい! 」と、魅了させたい。驚かせたい。
そして「新たな表現方法はないか?」と、思い悩んだと、
造り手の端くれとして推測しております。
その「革新」の凄さは、21世紀の今も普遍な輝きを放ち、釘づけにされます。
数千年の歴史の中で日本酒の造り手も同じ気持ちだったと思うのです。
そうでなければ、現代に残って来なかった筈だと思うのです。
受け継がれて来たのは、その時々の、今に安住せず、
新たな輝きを求めて、変り続けた証なのです。
先人達の歴史の足跡の上に弊社は、存在しております。
彼らに敬意を払い、今を生きる弊社に出来る事。
それは、
皆さんにとって、より大きな喜びと幸をめざし、
時代の必然に目を背けず、皆様の声に耳をすまし、ただただ真摯に、
中味の更なる魅力を求めた、革新の先にしか道はなきと、考えております。
実は皆さんのジャッジの連続から今が生まれています。
皆さんは時代の見張り番です。厳しさと温かいサポートをお願いし、
簡単ですが、ご挨拶を〆括らせて頂きます。
酒蔵を見学させていただきました!







提供:株式会社萬乗醸造
愛知県名古屋市緑区大高町に拠点を構える株式会社萬乗醸造は、1640年代(江戸時代)に創業した、非常に長い歴史を持つ酒蔵です。代表的な銘柄「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」は、その圧倒的なクオリティとストーリー性から、国内だけでなく海外でもトップクラスの評価を獲得しています。江戸時代から受け継がれた蔵には、今でも一部当時の歴史的な建物が残されています。
萬乗醸造のルーツは「庄屋(しょうや)」にあります。江戸時代、お米は通貨のような価値を持っており、庄屋は各農家から年貢として集めたお米を納めるポジションでした。豊作の年に手元へ余ったお米を使って「お酒を造ってみないか」と声をかけられたのが始まりです。蔵には当時の誰がどれだけ年貢を納めたかを示す貴重な古文書が今も保管されています。
もともとお米を管理する「庄屋」だったからこそ、お米を使った酒造りがスタートしたのですね!
そうですね。名古屋は今でこそ「工業の街」というイメージが強いですが、もとは名古屋城を中心とした巨大な城下町。豊かな農業を背景に、味噌・醤油・お酒といった発酵文化が育った土地なんです。私たちの酒造りも、その延長線上にあります。
萬乗醸造にもかつて、大手メーカーの下請けとして大量生産のお酒を製造していた時代がありました。当時は少ない人数で大量のお酒を造っていましたが、現代表である15代久野九平治氏に代が変わるタイミングで、大きな転機が訪れます。「自分たちの顔、自分たちのブランドで世の中で勝負したい」。その熱い想いから下請けを徐々に縮小し、魂を込めた自社ブランド「醸し人九平次」へと完全にシフトしたのです。
安定した下請けから、自分たちの名前を掲げたブランド勝負へと大きく舵を切られたのですね!
はい。機械による大量生産から、あえて手間のかかる手仕事の造りへと戻しました。効率だけを見れば逆行です。それでも、お米が持っている力を最大限に引き出すには、それがいちばん誠実なやり方だったんです。
萬乗醸造が海外に目を向けた理由は、売り先を増やすためではありませんでした。ワインは1本何万円でも当たり前に受け入れられるのに、同じ醸造酒である日本酒はなぜそう見られないのか。この価値のギャップを埋めたいという思いが出発点でした。だからこそ、多くの蔵元が向かったアメリカではなく、ワイン文化と美食の中心地であるフランス・パリを選びます。アポもない中、一般客としてレストランで食事をし、食後に挨拶に現れたシェフに「私たちはこんな酒を造っている」と直接手渡す、愚直な「正面突破」を繰り返したのです。
誰も行かなかったパリで、さらに直接レストランのシェフに交渉するなんて、凄いバイタリティと正面突破の精神ですね!
フランスは職人の技術やプライドに対して非常に深いリスペクトがある国です。直接伺い、シェフに味わっていただいたことでパリの3ツ星レストランのリストに載る、初めての日本酒になりました。

提供:株式会社萬乗醸造
パリのレストランでの大きな気付きの一つが「ワイングラス」での提供でした。当時、海外には日本酒を飲むための「お猪口(おちょこ)」はありませんでした。そのためレストランの大きなワイングラスでお酒を飲んだところ、お猪口では感じにくかった華やかな香りが一気に開き、驚くほど劇的に味わいと香りが向上することに気付いたのです。「日本酒はお猪口で飲むもの」という当たり前の常識から脱却し、新たな価値を創造した瞬間でした。
実際にワイングラスでいただくと、まず香りがふわっと広がって、飲む前から美味しさが全然違います!
お猪口のように口が広がっていると、香りをとどめることができません。香りが開く温度と、器の形。この2つを変えるだけで、同じお酒がまったく違う表情を見せる面もあります。「日本酒はこう飲むもの」という思い込みをなくし誰でも気軽に楽しんでいただけたら嬉しいです。
パリの3ツ星レストラン「ルドワイヤン(Ledoyen)」のヤニック・アレノ氏や、ソムリエ世界チャンピオンのオリヴィエ・プシエ氏といった一流のプロフェッショナルたちが名古屋の蔵を訪れた際、彼らから飛んできたのは意外な質問でした。醸造の技術ではなく、「このお米の品種はどう違うの?」「どうやって育てているの?」という、ワイン造りの基本である原料「ブドウ(=お米)」に関する問いばかりだったのです。
ワインの本場の方々だからこそ、技術よりも何より「土」や「お米(ブドウ)」そのものに興味があったのですね!
そうなんです。ところが当時の私たちは、自分たちでお米を育てていませんでした。本で読んだ知識や農家さんからの受け売りで答えるしかなく、表情から「なにか自信の無さ」を見抜かれている気がしました。この悔しさが、蔵が自ら田んぼに入るという決断につながりました。

提供:株式会社萬乗醸造
2010年、萬乗醸造はお米の名産地である兵庫県黒田庄町で、念願の自社米作りをゼロからスタートさせました。その栽培方法は、通常の米作りとは一線を画します。お米を植える間隔(条間・株間)をあえて広く開けて植えるのです。これによって1株あたりの日当たりが良くなり、十分に光合成ができるようになります。
間隔を開けるだけで、そんなにお米の育ち方が変わるのですか?
はい。日当たりだけでなく風通しも劇的に良くなります。葉っぱが風で適度に乾くことで、植物としての「生存スイッチ」が入り、地中から自発的に水や栄養をぐんぐんと吸い上げるようになるのです。こうして、1粒1粒が重く、栄養の詰まったお米が育ちます。田んぼの設計を変えることが、そのまま酒質の設計になっているんです。

提供:株式会社萬乗醸造
萬乗醸造が栽培する「山田錦」は1936年に誕生した、野生の稲に近い性質を残す品種です。140〜150cmもの高さに成長するため、台風などの風で非常に倒れやすいという特徴があります。そのため、1反(300坪)あたりの収穫量は約6俵と、一般の食用米(10〜12俵)の半分程度しか取れません。さらにこれを35%まで贅沢に磨き上げてお酒にすると、なんと畳2枚(1坪)の面積から、たった1本のボトル(750ml)しか造ることができないのです。
畳2枚でたったの1本……!フランスの最高峰ワインである「グラン・クリュ」をも凌ぐ、とんでもない希少価値ですね。
フランスのグラン・クリュ級のワインであれば、日本に輸入されると1本2万円以上になるのが当たり前です。しかし私たちの35%磨きのお酒は、現状約5,000円で手に取ることができます。お米を半年育て、3ヶ月かけて醸し、さらに何ヶ月も寝かせる。その積み重ねに見合った「日本酒本来の価値」を、物語として伝えていくことが、私たちの役目だと思っています。

提供:株式会社萬乗醸造
萬乗醸造のお酒には、ボトルに「ヴィンテージ(収穫年)」が誇らしく刻まれています。お米を自分たちで育て始めた2010年以降、日本の夏の暑さは年々厳しくなり、毎年まったく異なる天候と向き合うことになりました。お米は、気温が高い年には硬くなり、低い年には柔らかく育ちます。硬いお米は溶けにくいため、お酒は非常にスレンダーな味わいになり、柔らかいお米からはふくよかなボリュームのある味わいが生まれます。
工業製品のように毎年「同じ味」を目指すのではなく、その年のお米の個性をそのままお酒に表現しているのですね!
これこそが田んぼが紡ぎ出すリアルなドラマなのです。日本では、瓶の日付が古いと「売れ残り」のように思われてしまう風潮がまだ残っていますが、ワインと同じように「この年の天候が生み出した豊かなドラマ」として、お米のヴィンテージを楽しんでいただける文化を創り出したいと考えています。

提供:株式会社萬乗醸造
萬乗醸造は、2013年からフランス・ブルゴーニュでのワイン造りにもゼロから挑戦しています。買収した畑でブドウを自社栽培し、2017年には完全に自社畑・自社醸造のスタイルを確立させ「ドメーヌ」となりました。そして2026年、そのワイン造りから得た「テロワール(土地の個性)」の知恵を引っ提げて、ついに兵庫県黒田庄に、お米の畑に囲まれた新しい酒造りの拠点「ドメーヌ黒田庄」を始動させます。
現地でお米を育て、そのお米の育ったすぐ横の醸造所で、現地の水と空気を使ってお酒を仕込むのですね!
『「正面突破」が一番の近道』
萬乗醸造の蔵には、「正面突破」と書かれた額縁が飾られています。新しい挑戦を始めるとき、私たちはどうしても「もっと楽な、とんでもなく上手な解決方法があるのではないか」と回り道を探してしまいがちですが、本当に価値のあるもの、良いお酒を創り出そうとしたとき、最後は「最高の原料(お米)にとことん向き合う」という愚直な正面突破しか、最も短く確実な道はないという思いが込められているそうです。
以上、株式会社萬乗醸造(醸し人九平次)の取材報告でした!
レポーター:名古屋大学 4年 稲葉琉斗
取材前、日本酒に対しては「伝統や製法がすべて」というお堅いイメージを持っていました。しかし、白井様が語ってくださった「お猪口の常識を疑いワイングラスで飲む可能性を拓く」といった当たり前を否定する力、そして「おいしいお酒を追求するために、自分たちで田んぼに飛び込み米から育てる」という、嘘のない愚直な正面突破の熱量に強烈な感銘を受けました!日本酒とワインという2つの醸造酒を通じた、壮大なものづくりのストーリーに触れ、自分の視野が何倍にも広がったと感じています。本当にありがとうございました!
レポーター:名古屋市立大学 2年 藤井惇生
レポーター:名城大学 4年 片野源也
レポーター:名古屋大学 4年 横山温輝
取材協力:株式会社萬乗醸造
取材レポーター:稲葉琉斗 (名古屋大学 4年)
横山温輝 (名古屋大学 4年)
藤井惇生 (名古屋市立大学 2年)
片野源也 (名城大学 4年)
取材記事担当 :稲葉琉斗 (名古屋大学 4年)
取材SNS担当 :稲葉琉斗 (名古屋大学 4年)
当ホームページは株のトラ独自の見解が含まれており、特定銘柄の推奨や株価の上昇または下落を示唆するものではありません、最終判断はご自身にて行って下さい。
本記事の内容の著作権は株のトラⓇに帰属します。
企画・構成・撮影:株のトラ®
企業様へ
『学生向け企業レポート』取材希望の企業様は未来金融研究部(kabutora@k-tora.com)までお問い合わせ下さい。
※投資にさらに興味を持ってもらうことを目的としているため、市場は問わず企業様の取材をさせて頂いております。









